風の翻訳に対する考え方

風の翻訳に対する思いと取り組みについてご説明し、ご理解を得たいと考えます。

1.翻訳は文化の移転。辞書による単語の置き換えではない。

多くの方々は、ソース言語*から辞書を使って、ターゲット言語*に文法に従って置き換えるのが翻訳であると考えておられます。駆け出しの翻訳者でさえ、そのように思っている人が沢山います。しかし、これは大きな間違いです。

   
注: ソース言語:   翻訳の対象となる言語
      
  ターゲット言語:  翻訳結果となる言語
  

二つの言語で表現される同じ事実を文法的に同じ意味を持つ文章で表現したとしても、ソース文の本当に意図していることが伝わるとは限りません。

極端な例ではヨーロッパで書かれた、123,456とアメリカや日本で書かれた123,456は見かけは同じでも値の大きさは1000倍違うことがあります。

たとえば「手と手を合わせてしあわせ」というコマーシャルがあります。このコピーを書いた作者は、「幸せ」と「皺合わせ」を掛け合わせて笑いを誘い、何となく老婆が「しわ」の連想で思い浮かぶことまで考えていたかもしれません。「手を合わせる」には神仏に祈りを捧げるという意味があることは日本人ならおそらく誰でも知っているでしょう。それこそ訳がわからなくても親、あるいは祖父母が仏壇や神棚に向かって手を合わせることを知っている幼児もいます。だからこそ、このコピーを4歳か5歳くらいの子役にいわせている意味があるのでしょう。そこで、多少こましゃくれた子供に言わせてもう一度笑いを誘うことを意図しているのかもしれません。だからこそ、このコピーが仏壇のコマーシャルになりうるのだと思います。

この説明だけを読んで戴いただけでも、言葉通り訳してもコピーライターの意図が全く伝わらない場合があるということがご理解いただけると思います。風の外国語表現力や文化的知識は文科系のご出身の方に比べれば、引けを取りますが、風はそれを知っており、つねに初心に返って研鑽に努めています。

六日の菖蒲、十日の菊、という言葉をどのように翻訳するのでしょうか。 It was too late. とでも訳さなければ、言葉の本当の意味は伝わりません。辞書を引いて単語を置き換えても、英米人はきょとんとするだけでしょう。端午の節句や菊の節句という日本文化の知識を持たずには決して正しく訳せないことは明白でしょう。しかし、この訳文ではそれを花に例えた心の文化を伝えることは不可能です。

Next, you click the icon. を「次にあなたはアイコンをクリックします」とやっては翻訳丸出しです。たぶん原文のニュアンスは「次に、アイコンをクリックしてください」でしょう。このように、個性を尊重する西欧と仲間としての集団的共通意識で社会が成り立っている日本では表現の仕方一つをとってみても全く違います。

これらを、包括的にいえば、文化の違いを念頭に置いて異文化間で思想を正しく伝達するのが翻訳である」ということになると思います。

この意味から、翻訳業の世界では特に品質を重視する大手翻訳エージェントであればあるほど多くが、「ネーティブ*にしか翻訳させない。」という方針を出しています。しかし、他の言語は知りませんがこと日本語に関してだけはそういいきれない面があります。

注:ネーティブ:ターゲット言語を母国語とする人

日本は共通認識は言葉に表さないという言語習慣があります。反対に欧米諸国は、誰にもわかる論理的でかつ言葉を省略しない表現を必須とします。

注:島国という環境に恵まれた長年の鎖国政策の結果と、多くの欧米諸国の侵略の歴史といってもよい、異民族同士の交流の歴史との差と思われます。

西欧言語を日本語に移植する場合は引き算で表現を磨くことになりますが、その逆の場合は省略されている言葉をどんどん補って西欧言語体系が要求する構造にする加え算が必須です。このことは西欧言語のネーティブにとって大変なことです。

風は、「こと日本語をソースまたはターゲットとする翻訳には日本語のネーティブの介在が不可欠である。」と断言します。もちろん例外はあります。ただし、日本語のネーティブだけで西欧のターゲット言語への翻訳として最高品質のものができるというつもりもありません。あくまで「介在」です。日本語の省略(ターゲット言語からいえば欠落)部分を補うことはほとんどの西欧言語ネーティブには不可能であろうということをいっているのです。

そのうえで、日本人が西欧言語に移植したものをネーティブがリライトして、はじめて最高品質の翻訳が実現できると考えています。それは加え算であるが故です。これと反対に、日本語への移植(和訳)はより簡単です。引き算だからです。

しかし、和訳には別の意味での難しさがあります。日本人の平均的教育レベルの高さに起因して、日本語としての完成度が強く求められるからです。このことはある意味で和訳よりも外国語訳の方が翻訳者にとって効率的であるという現象さえ生じます。

風は、このように深く文化に根ざした文化知識が大量に要求される、いわゆる文芸翻訳のような、文章の技巧に多くを求められる分野の翻訳を手がけるだけの高度な語学能力は持っていませんし、また手がける意志もありません。しかし、このような考え方自体は科学技術分野の翻訳にも不可欠ですし、それを強く認識しています。

これらの考え方を簡単に表現すれば、「原文が透けて見えるような訳文は作らない」言い換えればターゲット言語で書き下ろされたような文章にする」のが最高の翻訳だと考えています。

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2.風の守備範囲

風は自分の能力を熟知しています。だから自分が納得できるレベルを超える翻訳は基本的にお引き受けしないことにしています。

具体的にいえば、科学技術分野以外の分野については、風の能力をよく知ってくださっている方から、おまえのレベルでよいからとにかくやってくれといわれない限りは引き受けません。引き受ける場合でも、できるだけ、仲間内のその分野に強い翻訳者に書き下ろして貰い、それを風が責任を持ってチェックするという手法を取ります。

それは、製品品質を可能な限り高く維持し顧客の満足を得る(CS)ことを最大目標にしているからです。そこには当然QAQCという思想も含まれます。

CS: Customer Satisfaction、顧客満足
QA:
Quality Assurance、品質保証
QC:
Quality Control、品質管理

さて、科学技術の範囲には非常に広い分野があります。大学の工学部の学科の数と、1つの学科の内容を習得するのにかける年数をは? そんなにも広く、深い世界をすべてその道の専門家としてこなしうる翻訳者がそれほど多く存在するはずはありません。それどころか、風自身も含めて工学部に進むほどのものは語学が嫌いか自信がないから進むといってもほとんど過言ではないでしょう。語学が得意なものはおそらく外語大学や外語学科に進学したはずです。

とすれば、本来不得手な語学に科学技術の専門家が歩み寄るか、科学技術に語学の専門家が歩み寄るかしかありません。風は、25年かけて前者の努力をしてきました。


機械工学博士とかドイツ文学修士などという称号はありません。あくまで、工学博士、文学修士という学位です。それどころか、Ph.Dとして一括して博士号を呼びさえします。このPh.とは Philosophy (哲学)の意味であることをご存じの方も沢山いらっしゃるでしょう。何故、工学を修めて Ph.D なのでしょうか。
これは何を意味するのでしょうか。風はその分野の知識ではなく、物事の本質を見極め得たレベルに応じて学位が与えられるものだと考えております。

同じ科学分野でも、医学と工学と生物学とでは表現文体も違えば単語自身も違います。そこには大きな壁があることは何人も否定できないでしょう。
如何に優秀な翻訳者といえども、その道の本当の専門家
*以外には本当に適切な文章が書けないことは明白です。それは、文体解析から筆者を特定することさえできることを考えてみればおわかりいただけるでしょう。
  注:もっと突き詰めていえば、その原著者以上の知識を持った人。

こう考えれば、翻訳には絶対的な壁があり、その壁に可及的に近づければ良しとしなければならないということがおわかりいただけると思います。とすれば、翻訳に求められるのは基本的には本質を誤りなく異文化言語に移転させることであると定義してもよいと考えます。

風自身は工学修士として恥ずかしくないだけの知見と能力を習得して学位を得、さらにその後30年間の実務を通じた研鑽により科学技術の本質をある程度把握し、OJTによりそれに磨きをかけてきたという自信を持っております。その結果は、本質を誤りなく見る力です。

この意味で科学技術分野であれば、どの分野でもその道の専門家が用語や表現を修正することによって専門家が書き下ろしたオリジナルの文書に見えるよう簡単に修正しうる翻訳文書をお届けできる自信があります。

風が本当にその道の専門家として翻訳できるのは機械、電気、水処理などの分野です。
そして、
それ以外の科学技術分野では、その道の専門家以外の人の翻訳と比較して負けないものをお届けすることが可能であると自信を持っております。特に境界科学技術分野の文献であれば、誰にも負けないという自信を持っています。
なぜならば、境界分野、特にたとえば電気と生物学と流体工学などの接点をこなしうる器用な技術者さえ、滅多にいませんが、それを翻訳しうる翻訳者は風以外にはいないと思うからです。

注:境界科学技術分野:いずれの分野だけでもない複数の分野にまたがった科学技術分野。ニッチといわれることもあります。

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3.風の翻訳の位置づけ

翻訳というものは上に述べたように、「本当のその道の専門家の翻訳には及ぶことは不可能であるが、その道の専門家が書き下ろしたものに限りなく近く訳出するべきものである。」と考えています。

このことは、翻訳は何らかの形で専門家と翻訳者が対等な形で協力し合わなければ最高品質の製品にならないことを意味します。この意味で、翻訳者を単なる外注下請けとしてではなく、顧客と翻訳者、そして間にエージェントが介在する場合にはエージェントも含めて、互いに対等であるという認識の上でご注文を戴くように努力しています。

そこで、風は原則的に翻訳に取りかかる前に用語集を作成し、顧客の点検をお願いしています。これによって、顧客と翻訳者の摺り合わせを行います。
現実問題としては、翻訳はあるイベントの最終直前の工程となるケースが多く、前工程の作業遅れのしわ寄せをすべて被ることになり、十分な時間が与えられない場合が多く、顧客による用語集の点検を待っておれないことになります。

したがって、顧客の点検と平行して翻訳を進めることが多くなりますが、これが後の修正に非常に大きな問題となります。よく、一括変換で用語を置き換えればいいと言われますが、それは不可能です。ソースとターゲットの用語が完全に1対1になっていればまだしも、相互に複数の意味を持つ場合や、文章しかも流暢なを練り上げるほど同じ言葉を品詞を変えて使用するという現象が生じます。

発注側のお客様にもこの点を十分配慮していただきたいと考えております。どのような製品でもそうですが、発注側が積極的に参画せずに自分が本当に望む製品を受注者が作り上げることはできないということを十分認識していただき、製品と言うよりは共同作品を作りたいとさえ考えています。

しかし、現実にはこのような理想とは大きくかけ離れます。やすくて速ければ、品質などは二の次、ひどい場合は英語の単語さえ並んでおればよいというような翻訳依頼、また安く仕上げてくれる翻訳者ならどんな翻訳者にでも発注するという翻訳会社、そして、自分は語学の専門家だから何でも翻訳できると考えている似非翻訳者、そして価格はいくらでもよいからとにかく注文がほしい、という例が少なくないことは否定できません。

風はこのような方々は競合相手としません。一説に、世の中には200人、2000人、2万人グレードの翻訳者がいると言われています。そして、2万人の多くはこのような人たちであり、このような人たちが世の中の翻訳価格を決めてしまう結果になっています。
風は単語を置き換え、文字を並べ替えるだけのような仕事ははじめから受注しないことにしています。この分野の
200人のなかにはいると自負しており、そうであり続けたいと思っています。

つぎのような例を引けばご理解いただけるかもしれません。

同じ価格で二種類の宿に泊まるとします。一方は高級旅館を値切り倒した旅館側からは嬉しくない客として、他方は高い値段を払ってくれる安宿の上客としてです。

料理を比べてみましょう。前者は品数も少なく見栄えも貧相かもしれません。しかし、素材を落とすにも限度がありますし、味付けも落とすことは不可能です。後者は元々高級素材など用意していませんし、腕の良い板前も雇っていませんからまずい料理しか作りようがありません。それでも値段に見合った料理を提供しなければなりませんから、品数はべらぼうに増えます。不味くて、いやと言うほどの量の料理など食べきれるはずがありません。

高級旅館には下げきれない最低限界が、安宿には越えられない壁があります。風は高級旅館を志向します

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4.風の翻訳方法論

高級旅館を志向する風も、世間の価格レベルを無視することは不可能ですし、CSは常に低価格・高品質でなければ達成不可能です。

このためにはフォードがしたように、トヨタがしたように、翻訳にも、どうしても自動化やその他のOAの導入が不可欠です。風は開業以来、常にOA化を模索し続けています。それについては翻訳環境をご覧戴ければ、ある程度想像願えることでしょう。

そのもっとも有力な武器は機械翻訳ですが、ご承知の通り、一般的な機械翻訳の結果は悲惨なものです。ノウハウですので、詳しいご説明はできませんが、風は機械翻訳を含めたOAを、十分とはいえないまでも最大限に利用し、省力化、高速化、品質の安定化に生かそうとし、そのための努力と研鑽を絶え間なく行っています。

ここまでお読み下さったお客様は、あなたで人目です

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